トリガーポイント鍼灸・筋膜リリースの鍼灸院 feel 横浜 院長の佐野です。
前回に続いて、今回も後方斜走筋膜連鎖(Posterior Oblique Sling)のお話、 パーソナルトレーニングの現場で実際にあったケースをご紹介します。
一側性トレーニング(片側で行う種目)をすると、「片側だけ動かしにくい」「フォームがぎこちない」という経験はないでしょうか?
私のクライアント様でも、左のワンハンドロウイングの際に脇を閉じられず、肩が外に逃げてしまうという問題が起きていました。
通常であれば、大円筋・広背筋の活性不足や三角筋後部のコントロール不良を疑うところですが、「動く筋肉そのもの」が原因とは限りません。
実際、今回のケースでは、腸骨稜周囲の大殿筋起始部をリリースしただけで動作が劇的に改善しました。
*ただしこれは一過性のもので、筋膜の性質上30分〜1時間後には戻ってしまいますので、長期的に整えるには継続的なケアが必要です*

■ なぜ「お尻」をゆるめるとワンハンドロウが改善するのか?
鍵になるのが、広背筋 ↔ 胸腰筋膜 ↔ 反対側の大殿筋 を結ぶ後方斜走筋膜連鎖(Posterior Oblique Sling)です。
胸腰筋膜は、背部・腰部・骨盤をつなぐ“張力のハブ”であり、筋膜同士は 力学的に連続して張力を伝達する構造 を持っています。
(筋膜ネットワークは張力伝達・滑走性の変化により全身へ影響する、と文献でも述べられています)
特に大殿筋上部線維は胸腰筋膜と強く結びついているため、ここがタイトになると広背筋側での肩甲帯の引き込み動作(脇を締める動作)が妨げられます。
つまり“左のワンハンドロウが崩れる”という現象が、右大殿筋のタイトネス から起きていても不思議ではありません。
また筋膜は、滑走不全が生じると関係のない場所にまで動作エラーを伝える特徴があるため、局所のコリや硬さだけ見ていると本質を見逃します。
■ 筋膜のつながりは、トレーニングだけでなく不調にも影響する
今回のように、「肩の動きの問題 → 実は骨盤周囲」というケースは珍しくありません。
これは、筋膜が身体全体を包みつなぐ「連続組織」であり、どこか一部の滑走不全が遠隔部位の動作や感覚へ波及するためです。
そのため、
すっきりしない肩こり
デスクワーク後の頭痛
動き始めの腰の重さ
スポーツ時の左右差
こういった症状の背景にも、筋膜連鎖の乱れ が隠れていることが非常に多いのです。
■ 最後に
片側種目のみならずフォームが安定しないとき、「筋力不足」だけでは説明がつかないことがあります。
筋膜の滑走、張力の伝達、連鎖のエラー。
これらを整えることで動作は驚くほど変わります。
トレーニングを頑張る皆さんにこそ、筋膜のつながりという視点を持っていただければと思います。
=筆者:佐野 聖(さの ひじり)/ はり・きゅう・マッサージ治療院 feel 院長=
1995年に鍼灸マッサージ師(国家資格)を取得し、整形外科勤務からキャリアをスタートしました。臨床の現場で数多くの症例に携わる中で、痛みの多くが筋肉や筋膜に由来することに注目し、2003年に横浜で「はり・きゅう・マッサージ治療院 feel」を開業。筋筋膜性疼痛症候群(MPS)やトリガーポイント治療を専門に据え、肩こり・腰痛・坐骨神経痛・五十肩・頭痛など、慢性的な痛みに取り組んできました。
その治療技術や臨床経験は、鍼灸専門誌『医道の日本』でも特集として紹介されています。