トリガーポイント・筋膜鍼灸のfeel横浜院長の佐野です。
2025年11月23日。
この日、私はコンテスト会場に足を運び、那谷屋真菜選手が IFBB プロカードを取得する瞬間を、現場で見届けました。
長年治療家をしていると、多くの選手の成長を見守る機会がありますが、毎回感動させれらます。
真菜選手は、もともと筋量・シンメトリー・コンディションのどれも高いレベルにありながら、時折、腰の張りや鈍痛が動作に影響することがありました。
今日のブログでは、私が彼女のケアを担当する中で最初に注目したPosterior Oblique Sling(後方斜走筋膜連鎖) について、少し専門的なお話をしていきます。
■ Posterior Oblique Sling を最初に疑った理由
アスリートの腰痛は、局所の問題よりも張力システム全体のエラーで起こることが多い。
ビキニ競技は見た目以上に骨盤・体幹に負荷がかかります。
ポージングでの骨盤固定
片脚荷重の多用
胸郭と骨盤を逆方向に使うねじれ
大殿筋の張力が強いほど起こる腰椎への牽引力
など、胸腰筋膜および脊柱周囲に“ねじれストレス”が蓄積します。
そのため、初回の評価では
広背筋 → 胸腰筋膜 → 反対側の大殿筋

という斜め後方の筋膜連鎖、いわゆる Posterior Oblique Sling(POS)にまず着目しました。
このスリングが乱れると、
骨盤と体幹の連動が崩れ、最終的に腰痛として現れることがあります。
■ 初回のケア:左脊柱起立筋 × 右大殿筋 × 左ハムストリング深層
真菜選手の身体を評価していくと、
左脊柱起立筋の過緊張
右大殿筋の張り
左半腱様筋・半膜様筋の緊張
という特性が浮かび上がってきました。
これは POS の機能不全でよくみられるパターンで、左側の起立筋と右側の殿筋の“対角連動”が弱くなり、胸腰筋膜のテンションが左右で揃わなくなる状態です。
▼ ここから治療のファーストステップを組み立てました。
① 左脊柱起立筋の緊張除去
胸腰筋膜の張力バランスを整え、右大殿筋への張力伝達を回復させるためにアプローチ。
② 右大殿筋の筋膜性タイトネス(滑走不全)の改善
筋力そのものではなく、“広背筋 → 胸腰筋膜 → 大殿筋”のラインの滑走とリズムを整えることに重点を置きました。
③ 左ハムストリング深層のリリース(半腱・半膜)
この深部の緊張が仙腸関節の可動性を制限し、POS の起点となる骨盤の動きに影響していたため、滑走性を回復させました。

■ 「点」ではなく「連鎖」を整える重要性
真菜選手に限らず、アスリートの腰痛において“痛んでいる場所=原因”ではありません。
多くの場合、
対角線の張力連携が崩れる
仙腸関節の微細可動性が落ちる
胸腰筋膜が滑走不全を起こす
大殿筋の方向性が乱れる
広背筋と骨盤のねじれが同期しない
こうした 張力システムの乱れ が先に起こり、その代償を脊柱起立筋が背負うことで「腰痛」として現れます。
だからこそ、最初にPosterior Oblique Sling 全体を整えることから治療を始めました。
そして、これらの施術のほとんどは鍼で行いました。
深部でも容易にアプローチできる鍼治療は、皮膚の上からのマッサージなどの刺激よりも、体への負担が少なく済みます。
(ズーンと重みを感じはしますが・・・)
■ ケア後に現れた明確な変化
POS が整い始めると、真菜選手の身体はこう変わりました。
立位での骨盤のブレが消失
バックポーズでの腰の緊張が軽減し、ラインがより美しく
ハムストリングの張り感が減少
トレーニング後の腰部疲労が軽減
ヒップの形がよりクリアに見えるように
特にバックポーズでのアウトラインが変わったことは、ステージでの見栄えにも直結する大きなポイントだと考えます。
■ プロ選手の身体を支えるということ
コンテスト会場で真菜選手がプロカードを受け取った瞬間、胸が熱くなりました。
“身体が進化するプロセス”に寄り添い、その一部を支えることができたのは治療家として何よりの喜びです。
これから先も、筋膜連鎖の視点・動作と張力の統合を軸に、IFBBプロ 那谷屋真菜選手のさらなるパフォーマンス向上をサポートしていきたいと思います。
■ まとめ
筋膜性タイトネスは、単なる「筋肉の硬さ」とは違い、身体の動き全体の質を左右する構造的な問題です。
特にハードにトレーニングをされる方ほど、筋膜の滑走性や連鎖のエラーがパフォーマンスに大きく影響します。
そしてこれは、筋肉を鍛えて育てていくのと同じように、一度で劇的に変わるものではありません。
筋膜連鎖のエラーは、偏った負荷や姿勢、反復動作によって長い時間をかけて形成されるため、改善にも継続的なケアと計画的なアプローチが必要になります。
施術を重ねるごとに張力のバランスが整い、動きが変わり、痛みや疲労感が減り、トレーニングの質や日常生活の快適さが確実に向上していきます。
もしこの記事を読んで来院を考えている方がいれば、ぜひ一度ご相談ください。
あなたの身体の状態を丁寧に評価し、筋膜連鎖のどこにエラーがあるのか、何を整えるべきか を明確にしたうえで、最適な施術プランをご提案します。
筋肉を育てるのと同じく、
身体の“動きの仕組み”も育てていくものです。
その過程を、私がサポートいたします。
=筆者:佐野 聖(さの ひじり)/ はり・きゅう・マッサージ治療院 feel 院長=
1995年に鍼灸マッサージ師(国家資格)を取得し、整形外科勤務からキャリアをスタートしました。臨床の現場で数多くの症例に携わる中で、痛みの多くが筋肉や筋膜に由来することに注目し、2003年に横浜で「はり・きゅう・マッサージ治療院 feel」を開業。筋筋膜性疼痛症候群(MPS)やトリガーポイント治療を専門に据え、肩こり・腰痛・坐骨神経痛・五十肩・頭痛など、慢性的な痛みに取り組んできました。
その治療技術や臨床経験は、鍼灸専門誌『医道の日本』でも特集として紹介されています。