こんにちは。
横浜の鍼灸マッサージ治療院feel、院長の佐野です。
今回は「肋骨の骨折」と診断された患者さんの症例から、腹筋群の筋筋膜性疼痛症候群(MPS)という視点で考察してみたいと思います。
週3回テニスを楽しむ40代女性
ご来院いただいたのは、趣味で週3回テニスをされている40代女性。
2日前から左の肋骨下部に痛みを感じるようになったとのことでした。
整形外科では、レントゲンには骨折は映らないものの、症状から肋骨骨折の疑いがあるということで、バンドによる固定処置を受けておられました。
「肋骨だから、触らないでください」とのことでしたが、当院は定期的なメンテナンスの予約日であったこともあり、詳しくお話をうかがいました。
痛みの出方に違和感
ご本人によれば、
咳やくしゃみでの痛みはあまりない
体幹をひねる動作(特に左回旋)で痛みが強くなる
という特徴がありました。
私は、ここに違和感を覚えました。
本当の骨折であれば、呼吸や咳などで強く痛むことが多いためです。

確認した動作と臨床所見
評価のため、軽く腰椎を左回旋させる動作をしていただくと、左の肋骨下部にピンポイントの痛みが出現しました。
この動作と痛みの出方から、骨由来ではなく筋肉由来の痛み、つまり筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の可能性が強くなりました。
痛みの原因筋:腹斜筋群を中心に評価
ここで注目したのが、外腹斜筋と内腹斜筋です。
特に腹斜筋は、体幹の回旋動作に大きく関与する筋肉であり、スポーツ動作で酷使されやすい部位です。
左に体幹を回旋した際の痛みということは、
左の外腹斜筋(短縮側)
右の内腹斜筋(伸張側)
このうち、左の外腹斜筋の短縮痛(=収縮時痛)を疑いました。
鍼治療とその反応
患部を丁寧に触診したところ、左の外腹斜筋に明確な圧痛点と索状硬結(トリガーポイント)を確認。
その部位に深さと方向を調整しながら鍼を施術したところ、
「体をひねってもさっきのような痛みが出ないです」との反応をいただきました。
翌日からは問題なくテニスをされたそうです。
まとめ:骨折に見える筋筋膜性の痛みもある
肋骨の痛み=骨折と決めつけてしまいがちですが、スポーツや動作のパターンから生じる筋肉由来の痛みであることも少なくありません。
特に腹斜筋は、「くしゃみ・咳では痛くない」「体幹のひねりで痛い」という場合に注意すべき部位です。
おわりに
今回のように「骨折かもしれない」と診断されたケースでも、動作や触診の反応から筋肉由来の痛み(MPS)が関与している可能性も考えられます。
特にレントゲンでは異常が見られないけれど、特定の動作で痛みが出るような場合には、筋肉の過緊張やトリガーポイントが症状を引き起こしていることもあります。
もちろん、すべてが筋肉性とは限りませんが、見落とされやすい筋由来の痛みを丁寧に評価することで、回復への糸口が見つかることもあるという一例としてご紹介しました。
同様のケースに心当たりのある方は、無理のない範囲で体を休めつつ、適切な評価とケアを受けることをおすすめします。
『この記事の執筆者:佐野 聖(はり・きゅう・マッサージ治療院 feel 院長)』
佐野聖は1995年に鍼灸マッサージ師(国家資格)を取得。8年間にわたり整形外科クリニックに勤務し、医師との連携による臨床経験を重ねたのち、2003年に横浜にて鍼灸マッサージ治療院「feel」を開院しました。
筋筋膜性疼痛症候群(MPS)やトリガーポイントによる痛みやコリの治療を専門とし、肩こり・腰痛・坐骨神経痛・五十肩・頭痛など、多岐にわたる慢性症状の改善を得意としています。
その治療技術は、鍼灸専門誌『医道の日本』にも紹介されており、エビデンスと経験をもとに、患者様一人ひとりの痛みの本質に迫る施術を行っています。