「治療を受けた後は楽だったのに、1週間くらいするとまた腰が痛くなる」
腰痛の治療をしていると、このような経過を見ることがあります。
一度良くなったのに再び痛くなると、「治療が効いていなかったのでは?」と思うかもしれません。 反対に、治療直後に痛みがなくなれば、「もう治った」と考えたくなるところです。
ただ、実際の身体はそれほど単純ではありません。
特にスポーツやウェイトトレーニングなど、日常生活よりも大きな負荷が身体にかかる場合、 「痛みを感じない状態」と「以前と同じ負荷をかけても症状が出ない状態」には差があることがあります。
今回は、治療すると腰痛は軽減するものの、ウェイトトレーニングを再開すると再発するという経過を繰り返した症例から、 筋筋膜性の腰痛について考えてみます。
腰痛は「痛みがなくなった=元通り」とは限らない
腰痛の程度は、安静時、日常生活、前屈や立ち上がり、重量物を持つ動作など、身体に加わる負荷によって変わります。
たとえば日常生活では痛くなくても、重いものを持つと痛い。歩くのは問題ないけれど、トレーニングをすると痛い。 このような状態は珍しくありません。
ここで考えたいのが、「どの程度の負荷まで症状が出ないのか」という視点です。
治療後に痛みが軽減して、日常生活や前屈ができるようになったとしても、 それまで症状を誘発していた強度の運動まで問題なくできるとは限りません。
つまり、「痛い・痛くない」という二択だけでは、回復の状態を十分に判断できないことがあります。
筋筋膜性疼痛とは?
腰痛の原因には、椎間板、椎間関節、神経、骨などさまざまなものがありますが、 筋肉やその周囲の組織が痛みに関与していると考えられるケースもあります。
その一つが筋筋膜性疼痛です。
筋筋膜性疼痛では、筋肉の中に圧痛を認めたり、特定の部位への刺激によって 普段感じている痛みが再現されたりすることがあります。
ここで注意したいのは、「押して痛い筋肉=腰痛の原因」ではないということです。
腰が痛い人の腰を押せば、痛いところが見つかることはあります。 そのため圧痛だけで判断するのではなく、どのような動作で症状が出るのか、 どこを刺激すると普段の症状が再現されるのか、治療によって動作や症状がどう変化するのかなど、 複数の情報を組み合わせて考える必要があります。
ウェイトトレーニングをすると再発した腰痛
今回の患者さんは30代の女性で、1か月以上右腰部の痛みが続いていました。
特に腸骨稜中央付近に痛みがあり、前屈も困難な状態でした。
特徴的だったのは、ウェイトトレーニングの内容によって症状が違ったことです。
ベンチプレスはできるのに、ウェイトを床から持ち上げるような動作では腰が痛む。
同じ「トレーニング」でも症状が出るものと出ないものがある。 この違いは、身体のどこに負荷がかかったときに症状が出るのかを考える材料になります。
身体を確認すると、腰部腸肋筋や腰方形筋周辺への刺激で、普段感じている腰痛が再現されました。
最初は脊柱起立筋を含めた腰部筋の関与を考えていましたが、 床から重量物を持ち上げる動作で症状が出ることから、 腰部だけでなく腰椎・骨盤周囲の安定性に関与する筋も確認し、 腸腰筋まで評価・治療の範囲を広げました。
1回の治療でほぼ痛みがなくなった。それでも再発した
初回は、腸骨稜周辺の腰部筋付着部や腸腰筋などを中心に治療しました。
施術後には前屈ができるようになり、腰痛もほぼ感じなくなりました。
ところが5日後にウェイトトレーニングを再開すると、その2日後に腰痛が再発しました。
その後は1週間間隔で治療し、ウェイトトレーニングを2週間休んでもらいました。 症状が落ち着いて再開しましたが、再び腰痛が出ました。
この経過が、今回の腰痛を考えるうえで重要でした。
治療によって症状は変わる。しかし、トレーニングの負荷を戻すと再び症状が出る。
少なくともその時点では、痛みが軽減したことだけを基準に、 以前と同じ負荷へ戻すのは早かった可能性があります。
なぜ腰痛は繰り返したのか?
今回の症例だけから、再発の原因を一つに決めることはできません。
「筋肉がまだ治っていなかった」「トリガーポイントが残っていた」 「トレーニングフォームが悪かった」と断定するだけの情報もありません。
ただ、経過から確認できたことがあります。
治療後は前屈できるようになり、痛みもほぼなくなる。 それでもウェイトトレーニングを再開すると症状が戻る。
つまり、 日常生活や軽い動作では症状が出ない状態になっていても、 ウェイトトレーニングという負荷に対しては、まだ症状が再現される状態だった ということです。
この違いを見ずに「痛くないから治った」「また痛くなったから治療が効かなかった」と考えてしまうと、 実際の経過をうまく説明できません。
一度トレーニングをやめてみる
再発後も治療を継続しましたが、今度はウェイトトレーニングを1か月休んでもらうことにしました。
ただし、運動そのものをすべて中止したわけではありません。 有酸素運動は継続し、症状を繰り返していたウェイトトレーニングを一時的に外しました。
その間も1週間間隔で3回治療を行いました。
その後ウェイトトレーニングを再開しましたが、今回は腰痛の再発はありませんでした。 現在は月1回のケアを続けながら、3か月が経過しています。
もちろん、この結果だけから「腰痛は1か月トレーニングを休めば治る」ということにはなりません。
治療も継続していますし、時間経過による変化も考えられます。 今回はウェイトトレーニングの休止期間を長くしたことも、 経過に関係した可能性のある要素の一つとして捉えています。
腰痛が戻ったときに確認したいこと
腰痛が再発したとき、「また同じ場所が痛い」ということだけでは十分な情報になりません。
前回の治療後、何日間楽だったのか。何をした後に再び痛くなったのか。 日常生活では大丈夫なのか。前屈ではどうなのか。重量物を扱ったときだけなのか。
こうした違いを確認すると、単純な「改善した・再発した」だけでは見えなかったものが出てきます。
今回の症例でも、 ベンチプレスはできるのに、ウェイトを床から持ち上げると痛む という違いが、腰部だけでなく腰椎・骨盤周囲の筋まで考える材料になりました。
筋肉の知識から可能性を考えますが、知識だけで「この筋肉が原因」と決めるわけではありません。 実際の動作、触診による症状の再現、治療後の変化、 さらに負荷を戻したときの反応まで確認しながら、 その時点で考えられる可能性を絞っていきます。
トレーニングを続けるために
今回のようにウェイトトレーニングで腰痛を繰り返す場合、 本来であればトレーニングフォームまで実際に確認できると、さらに分かることがあります。
治療院ではジムと同じ環境を完全に再現することはできませんが、 今回は身体の使い方やフォームについても可能な範囲でアドバイスをしました。
腰痛を軽減することはもちろんですが、トレーニングをしている方にとっては、 痛くない日常生活に戻ることだけがゴールではありません。
痛みが軽くなって前屈ができるようになっても、 実際にトレーニングへ戻ってみなければ分からないことがあります。
今回も再開後の反応を確認しながら治療と休止期間を調整し、 最終的にトレーニングへ戻っても症状が出ないところまで経過を見ることができました。
【監修・執筆者プロフィール】
佐野 聖(さの ひじり)
はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師(国家資格)
横浜市の「はり・きゅう・マッサージ治療院 feel」院長。1995年に国家資格を取得後、整形外科勤務を経て、2003年に開業。
30年以上にわたり、肩こり・腰痛・坐骨神経痛・五十肩・頭痛などの慢性的な痛みの施術に従事。筋筋膜性疼痛症候群(MPS)、トリガーポイント、筋膜へのアプローチを専門とし、解剖学・運動学に基づいた施術を行っている。
トリガーポイント治療に関する臨床・技術について、鍼灸専門誌『医道の日本』に特集掲載。現在も国内外の知見を学び続け、臨床経験と根拠の両面を重視した施術を行っている。